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楽器に悩むとき


こんにちは。フルートを再開されて17年とは、とても長く吹かれているのですね。さすが、専門用語たくさんのご質問です。


まずは「引き上げ(ドローン)」と「ソルダード」をご存知ない方にご説明しますね。


フルートのトーンホールと呼ばれる、キーの下の部分(写真で印を付けたところ)は、5ミリくらいのエントツ状になっています。その部分が、管体から引き上げて作られたもの(引き上げ、ドローン)か、別で作ってハンダ付けしたもの(ソルダード)かという違いがあります。

一般的に、引き上げ(ドローン)はエントツ部分の厚みが管体よりも薄くなる分、音の立ち上がりが良いと言われていたり、一つの管から作られているため響きに一貫性があると言われたりします。逆に、ソルダードは少し重くなる分、抵抗感があり、深い響きを得られると言われます。


さて、それではどちらが良い楽器なのでしょうか?


結論から言うと(きっと質問者さんもご存知の通り)、どちらも良い!です。そして、「プロはみんなソルダードを吹いている」ということは全くありません。


C管とH管についても同じです。高音が華やかに響くC管を気に入って吹いている奏者もたくさんいます。


大切なのは、体に合っていること

私の持論は、とにかく楽器は体に合っていることが一番だと思います。フルートは体の軸に対して左右非対称な構え方をしなくてはいけないために、ただでさえ体に負担がかかります。無理をして重い楽器を吹いて体を壊してしまっては元も子もありません。


成長盛りの学生さんは別として、大人になってからは長時間吹いても無理なく響かせられる楽器が、その人にとってベストなものだと思います。


私が大尊敬するオーレル・ニコレ先生も、ムラマツのEXモデルを気に入って吹いていたと聞いたことがあります。(EXモデルというのは、洋銀性のとても軽い楽器です。)「あの豊かな音色のニコレが!?」と思われるかと思いますが、このことからも、「重い楽器だから良い音が出る」というわけではないことがわかります。


とあるコンクール受験者と、イチロー選手の話

楽器のことを悩みだすとキリがありませんよね。億万長者でない限り、欲しいものを全て買うのは不可能に近いので、ないものねだりになりかねません。


そんな迷いの時に私がよく思い出していたのは、とある国際コンクールのエピソードです。


内戦をしているような国からの参加者が、誰もが驚くような素晴らしい演奏をしてラウンドを進めていったのだそうです。しかし、いざ本選!となった時にいくつかの音がでなくなり、慌てて会場に来ていたリペアマンに楽器を見せたところ、「このフルートで今まで演奏していたとは信じられない!」と言われるくらいボロボロだったのだそうです。

それを知った審査委員たちが、コンクール後にお金を出し合って彼に新しい楽器をプレゼントしたというお話です。


これは極端な例ですが、どんなに厳しい状況下でも自身に与えられた条件で音楽を追求していた奏者のことを考えると、胸にこみあげるものがあります。


それに比べると、私たちはとても恵まれた環境にいると思います。(郵送なども使えば)日本全国、いつでも素晴らしい技術で調整してもらえて、最善の状態で演奏することができるのです。これは全世界の中でも特別なことだと思います。


また、もう一つ好きなエピソードがあります。


イチロー選手がシアトルの地元の小学校に招かれ子どもたちに講演をした時のこと。ある子どもから、「メジャーリーガーとして活躍するには何が一番大切か」と尋ねられ、次のように答えたのだそうです。


「お父さん、お母さんが買ってくれた野球道具を大切にし、自分のバット、グローブ、靴を磨くこと。」


イチロー選手はこの言葉の通り、勝っても負けても、試合後にはいつも同じようにご自身の道具やロッカーをピカピカに磨いていたそうです。


楽器とのご縁

さて、質問者さんが『一生モノ』と決めて購入された楽器は、何かしらのご縁があって出会ったものだと思います。


不思議なもので、浮気な心でいるとそれが楽器に伝わって、へそを曲げてしまうことがあるんです(笑)ぜひ今の楽器を吹くときは、最高の楽器だと思って息を吹き込んであげてくださいね。


それでもどうしても他のモデルが気になる場合は、楽器フェアなどに行って試奏されるのも良いと思います。比べてみると、「あれ、そんなに差がないな」と感じて熱が冷めることも良くあります。(たまに逆もあるので注意が必要ですが…笑)


「総銀、C管、引き上げ(ドローン)」のモデルは、愛らしい音色とコントロールのしやすさが魅力の楽器だと私は思っています。しかしそれだけではなく、息の量や角度、スピード、そして表情付けなどを変化させることで、表現の幅は無限に広がっていくはずです。


ぜひ吹き方を工夫しながら、楽しく演奏を続けてくださいね。

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