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執筆者の写真Yoshie Ueno

音色についての考え



音大卒業間近とは、試験を控えて大変な時期ですね。

音について、試行錯誤しながら頑張っている様子が伝わってきます。


音がないところで音について語るのが難しいのですが、ご質問にあった『芯を作ろうとすると押さえつけすぎと言われ、響かせようとするとまとまっていないと言われる』という状態からどうにか脱してもらいたいと思い、少し私の想いを書かせていただきますね。


私たち演奏者は、いくら録音技術が発達しても、最高峰のスピーカーを使っても、自分の本当の音を聴くことはできません。だからこそ、人の音をたくさん聴いて、客観的視点を持ちながら、自分の音に向き合っていくしかありません。数値化もできないことが多いので、イメージ論が多くなってしまいますがお付き合いください。


音についてのイメージを変えて

まず、音に芯があるorないの2択から発想を変えてほしいと思います。


私のイメージでは、よっぽどぼやかした表現の音以外はどの音も基本は芯があります

アルデンテのパスタ、こしのある讃岐うどん、鉛筆、、、なんとなく伝わりますでしょうか。アップだとこんなイメージです👇


そして、くっきりハッキリした音が必要な場合は、この芯をむき出しにするイメージです。👇


逆に、ふくよかな響きの音を出したいときは、芯の周りの柔らかい部分を増やします。👇



わざと芯をなくしてとてもとても柔らかく吹く時が稀にありますが、それも芯がある音が基本にあって活きる表現だと思っています。


芯は息のスピードと方向で作る

芯があるorないの2択ではないことを理解してもらったうえで、ではその芯をどうやって作ればよいかを考えてみましょう。


ご質問の中に「押さえつけて」という表現が出てきていますね。これは一番危険です。


フルートを強く押し付けてしまう原因 こちらでもお答えしている通り、押し付けすぎてしまうと、ノイズや響きを失い、良い音からどんどん離れていってしまいます。


でも、柔らかい口元だけではふにゃふにゃのまとまらない音になってしまいます。そこで大切なのが息のスピード(流れ)です。唇の脱力についてに書いた「柔らかい口元と力強い息の流れのバランス」を意識していただけたら、芯と響きが両立する音に近づけるはずです。


また、音色は息の方向にも左右されます。頭部管の歌口に対して、どの角度で、どれくらいのスピードで息が流れれば良い音が出るかを、忍耐強く捉えていく必要があります。

音色の引き出しを増やすために大切な時間と思って、じっくり研究してみてください。


音量は距離で

音量についての考えですが、私は実際のデシベルよりも距離感のイメージが大切だと思って演奏しています。先ほど説明した音の芯をダーツの矢、ホールの端っこに的があるようなイメージです。音を飛ばす最終目的地(距離)をどのあたりにイメージするかだけで、聴き手が感じる音量が変わってくるように思います。


狭い部屋でばかり練習しているとその距離感を身につけにくいので、窓の外に見えるものを的に見立ててそこまで音が飛ぶようイメージして演奏したり、ホール客席の写真を見て感覚を膨らませたりするのもおススメです。


音色の研究と共に、音の距離感を意識して練習してみてください。


柔軟に考えて

学生時代、エマヌエル・パユ氏の、プログラム全てがフルートコンチェルトというコンサートを聴きに行きました。大ホールで、大きな編成のオーケストラをバックにという、フルートにとっては厳しいプログラムにかかわらず、前半、ホール後方の席で聴いていたら、信じられないくらい音が飛んでくるではありませんか…!


どんな風に吹けばこんなに音が飛んでくるのか秘密を探りたくて、1列目に座っていた友人に休憩中に席を替わってもらい、後半はかぶりつきで聴きました。すると、ビックリするほどノイズたっぷりの音で演奏されていたことを知りました。


「なるほど、こんな風に吹けば遠くに飛ばすことができるんだな」、と知った翌日、今度は小さなサロンで行われた彼のマスタークラスを聴きに行きました。そこでお手本として演奏された音は、ツヤツヤでノイズのほとんどないような音でした。


どちらもパユ氏の音には違いないのですが、ホールの大きさや編成に合わせて奏法を変化させながら演奏されていることを知りました。


このエピソードのように、私たちも、常に柔軟に状況(ホールの大きさ、曲)に音や表現を適応させながら演奏するべきだと思うのです。『この音』と決めて凝り固まることなく、作品、会場や編成に合わせて柔軟に変化させるのが理想です。


質問者さんも、先生方からのアドバイスを上手に受け止めて、初めにご説明した芯のある基本の音色を様々に変化させながら演奏することを目指してみてください。


目的は音楽

最後に、忘れないでいてほしいのは私たちの目的は音楽(作品)を表現することで、音色はそのための道具ということです。音のための演奏にならないよう、自分が表現したいこと、お客さまに伝えたいことをまずしっかりとクリアにしておいてください。


少しでも悩みから解放され、気持ちよく伸び伸びと演奏できることを願っています!

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